スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『新幹線と私』 第四話

カズちゃんは四時過ぎに東京駅に着くらしい。またよれよれの服を着て、冴えない笑顔で「やぁ」なんて言ってくるのだろうか。ママは迷惑そうな顔をしてたけど、ワタシはカズちゃんに会えるのがちょっと嬉しい。

でも、ちょっと嬉しいだけ。カズちゃんはきっといつものあいまいな顔を浮かべたままで、一晩うちに泊まってまたどこかへ行ってしまう。カズちゃんはカズちゃんだから、それは当たり前のことで、ワタシとカズちゃんの間に張った糸は切れもしないでただ伸びるだけみたいに。
とにかく、カズちゃんを迎えに行かないといけない。オシャレしすぎるとカズちゃんが困ってしまうかもしれないから、服は派手すぎないものに。

ワタシは着替えて玄関に降りた。靴箱の上のボトルシップ、安っぽいおみやげにしか見えないカズちゃんのおみやげ。行き場を無くして玄関をただよう。
「ボトルは資源ゴミで、中身は燃えるゴミかしら」
でもビンを割る勇気はなくて。

まだ時間はある。表の空気に体をなじませよう。栗色の薄手のコート、空気を吸ってワタシを冷やして。
駅前に行こうかしら。荷物なんてないからこのまま東京駅に行っても。冬が早く来ればいいのに。

灰色の空気、水色のそら。泣き出しそうなおうち、崩れそうなビル。落ち葉が自転車とすれちがってどこかに消える。カズちゃんが来る。
ママはカズちゃんにごはんを出して、パパはカズちゃんにビールを出すだろう。カズちゃんは少しだけビールを飲んで真っ赤になる。ワタシは、カズちゃんに出せるものはないけれど、何かを守らないといけない。ワタシとカズちゃんが会って、その後にできる何か。ふ、とすると壊れてしまいそうなもの。それを探しに駅前に行くわけじゃない。駅前に行っても何もない。足は駅前を向いているのだけど。

道端、アスファルトのオレンジの上、少女がこちらを見ている。不思議な子。目がほっぺについているような。

「消えるのよ、世界が」

「消えないわ、世界は」

耳から入った音がワタシの中で響いて口からあふれたような、おうむがえし。
言って、我にかえって、顔が熱くなって血管がジクジクするのがわかる。
少女はじっとワタシを見たまま。動かない。

「あ……ごめんなさい」

こらえきれず言ってしまった。ワタシ、悪くないのに。

と、少女の口もとが動いて、すっと目が細まった。笑っているのかしら。
少女はくるりと回って走りだす。足音をのこして。灰色の街をすべるように。

「あ……」

一歩、踏み出そうとした時、湿っぽい風に吹かれたような重さを感じると視界が真っ黒いもやに覆われた。

----
落渕
スポンサーサイト

Powered by FC2 Blog

FC2Ad


Copyright © クーロンパンダ All Rights Reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。