スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『新幹線と私』 第五話

 再会の喜びをひとしきり噛み締めた後、由香はようやく私から体を離した。

 高校卒業以来、彼女とは会っていなかった。何年ぶりになるのだろうか。最初の驚きと興奮が過ぎ去ると、後はただ濃密な過去が私の頭のあたりにまとわり付くようだった。

 かつて、私は彼女を愛していた。そして、私は彼女を憎んでいた。

「ごめんなさいっ、つい興奮しちゃって……」
「いや……私も同じだよ。こんなところで会うなんて」
「なんか、先輩……」
「ん?」

 彼女は、一瞬迷ったように言いよどむ。

「どうしてそんなカッコを?」

 相変わらずだ、この娘は昔からこうなのだ。歯に衣を着せないとはよく言った。

 ここで身の上話をする気にはなれなかったので、折よく彼女の携帯から着信メロディが流れだしたとき、私は正直ほっとしていた。

「あ、ごめんなさい」

 由香は少し慌てて席を立つ。その拍子に彼女のバッグから何かが私の足元に落ちた。パステルカラーに小さく花柄のあしらわれた、やや子どもっぽい、可愛らしいコインケース。新幹線のチケットがちらりと覗いている。

 私は反射的にそれを拾い上げた。

 その瞬間、視界が黒いもやのようなもので覆われた気がして、慌てて頭を振った。そのもやは呼吸をしていた。鼓動が聞こえる。訳もわからず全身の産毛がぞっと逆立った。

 不意に頭上から声がした。男の声だった。

「それ、拾われたんですか?」

 顔を上げると、制服を着込んだ若い男が立っていた。さっき席に来た車掌だ。いつの間にか、もやは視界から消えていた。

「まあ、今さら手放しても遅いですがね。あなたが拾ったので、もう『所有権』は移ってしまいました」
「友人の落し物を拾っただけですよ」
「いえいえ。あなたが盗んだなどと言っているのではありませんよ。むしろ彼女が少し抜けていただけです。
 せっかく『残る方の世界』にいられたのに、かわいそうに」

 その言い方に少しトゲを感じたが、同時に、由香の姿が見えないことにも気付く。つい今まで目の前にいたのに。まるでこの車掌と入れ替わるかのように影も形もなくなっていた。

----
秋人
スポンサーサイト

Powered by FC2 Blog

FC2Ad


Copyright © クーロンパンダ All Rights Reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。