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『新幹線と私』 第六話

私のコインケースを先輩が拾った瞬間、視界が黒い靄に包まれた。
漆黒に染まった世界の中で、私に届くのはあの男の声だけ。

「いやはや、前代未聞ですね。『候補者』がこんな形で『あれ』を失うのは。あと一歩というところだったのに」

さんざんに聞き飽きた、厭味ったらしい声。

「ですが、どんな理由であれ『あれ』を失った者は次に必ず同じことを言うのですよ。もう一度だけチャンスをくれ、次はうまくやってみせると」

あの男が唇の端を歪めているのが眼に浮かぶようだ。

「そう、あなたがたはいつも同じです。そして私の返答もいつも同じ。『候補者』に与えられるチャンスは一度だけ。それを失った者は、選ばれなかった世界と共に消え去るのみ」

いまきっとあの男は、天を抱くように大仰に腕を広げているに違いない。

「あなたがた人間を、だから私は----」

「私は、チャンスを無駄にしていない」

「……は?」

鬱陶しい演説を私が遮ると、あの男が止まった……と思う。ささやかな復讐だ。

「先輩に『あれ』を渡せた。それは奇跡みたいな偶然よ。私は消えても、先輩はあの世界に残ることができる。それは素敵なことだわ」

決して貫けない暗闇の中で、あの男が後ずさったのが分かる。

「わざと……わざと、『あれ』を渡したというのですか!? ただ、かつて愛していたというだけの理由で」

「ええ」

そう、私は後悔していない。これが私の愛。これが私の贖罪。

「分かっているのですか、あなたは!? これは死ではない、抹消だ。あなたの存在だけではなく、あなたが存在したという事実自体が世界から消える。たとえ彼女が最後まで残ったところで、彼女の記憶からあなたは消える。それでもあなたはっ」

声が途切れた。だが今度は、あの男が止まったわけじゃない。
止まったのは私。
私の、存在。

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ラナクター
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