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『新幹線と私』 第七話

眠りから覚めるように、最初にやって来たのは"方向"の感覚。
あっちは明るい、こっちは暗い。
あっちは軽い、こっちは重い。
あっちは暖かい、こっちは寒い。


目も見えない、音も聞こえない。でも明るさは分かる、遠くのざわめきは聞こえる。
ここは暗い、静かな場所。あっちにいるのは……きっとカズちゃんだ。

「振り返るな」

知らず言葉が漏れていた。口はないのに声が出るような、不思議な感じ。
そう、ワタシは今、カズちゃんの方を向いている。それは変わっていない。いつだってそうだった。ワタシのする事は変わらない。

「会いたい」

そう

「行かなきゃ」

世界が形を取り戻す。灰色の世界。広くて小さくてかなしい世界。ここでは何かが終わりかけていて、でも、まだワタシがここにいて。なんでだろう……。

「悩むことも、悲しむこともないよ」

声をかけられた。あの娘。そうだった、あの娘を追いかけようとして……。

「あなたは、もう消えた。それは覆せない事実よ。でも、悩むことも悲しむこともない。世界そのものがこれに飲み込まれようとしている。時間の問題なのよ。あなたの家族も、好きな人も、みんな等しく消えるの」

この少女は、今のワタシでもよく"見える"。この娘は人間じゃないんだ。

「これは世界そのものの死。人類全ての終わり。失ったものを嘆くのは生き残った者の仕事でしょう。悲しむのは私。消えるのはあなた。さようなら、きっとあなたのことは忘れないわ」

「時間」

「え?」

「時間は、残っているの?」

悲しい、苦しい、痛い、そんな感情のかけらが心の隅っこに沈んでしまって、ワタシの感覚はカズちゃんのいる場所とこことの距離をずっと測ろうとしている。ずっと近くて、ずっと遠い。会ったら何て言えばいいんだろう。

「今、ここに時間なんてないの。あなたは今消えていて、もう瞬きをする間にもいなくなってしまうのよ」

違う。
違う。
この娘は分かっていないんだ。時間はないのかもしれない、もう終わっているのかもしれない。でも、すぐ近くにあるものなんだ。ただ手を伸ばすだけでいい、ただ想うだけでいいんだ。
世界は終わろうとしている、ワタシは終わろうとしている、でも、そう簡単に終わり切れるわけないじゃない。

ワタシは、顔のない顔を"あっち"に向けて、脚のない脚で地面を蹴って、ただ、走った。行き先は分かってる。ただ真っ直ぐに。目のない目でこの小さな世界を見つめて。邪魔なビルは、邪魔と思った瞬間に消えていた。悲しみはそこに置いて、ワタシは走る。もっと速く? とっさに、視界の隅から自転車を飛ばしてみた。

「やだ、泥棒みたい……」

そうだ、ここからは坂道。学校に行く途中のあの坂みたいに。位置エネルギー。ワタシはあるべき所に帰るんだ。
灰色の街、霞む線、にじむ景色。バカみたい、ワタシ、カズちゃんに何て言えばいいのかわからない。

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落渕
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