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『天使から百年』 オーバーキルなんとか

落渕です。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

ぼけっとしていたらいつの間にか年が明けていましたが、いつものことですね…。

今回こちら。
天使から百年  魔人と主人と廃棄物 (富士見ファンタジア文庫)天使から百年 魔人と主人と廃棄物 (富士見ファンタジア文庫)
(2010/05/20)
野梨原 花南

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「魔人と主人と廃棄物」というサブタイトルから、中二病っぽさがヒシヒシと出ていて博打のつもりで買ったのですが、結果的には大当たりでした。作者の野梨原花南さん、女性向けラノベ方面ではベテランだそうで。知りませんでした。

あらすじ。主に魔法が出てくる学園ファンタジーもの、ですね。主人公のカイが、色々あって魔人フジシロユイカを召喚して異世界からやってくる敵と戦う、のですが、その魔人というのがどう見ても現代の日本人女子高生でおやおや、という感じです。カイ、ユイカとも女の子なので百合っぽさが多少…。
多少ネタバレですが、1巻終了時点で、カイ他が現代日本に飛ばされたりしてます…。全3巻予定だそうなのでその先どうなるか分かりませんが。

まあまあ、その辺が簡単な紹介なのですが、とにかく本作、文章が練れてます。今までで一番好きなんじゃないかってくらい。客観的に見て上手いとは思わないけど好きな文章、という人は他にもいますが、この人のは、好きだし上手いと思う、クラスです。

フォーマットは、カイの一人称に限りなく近い三人称です。カイがいる場面では、地の文がカイの心情になる感じで。傾向は、かなり絞り込んだ選択的な描写ですね。情報量は多くなくて、文章密度は濃くないですが、言葉の配置・構成で行間を構築する感じです。
地の文はカイっぽい語り口になっているので、結構簡素な普通の語り方です。女子の会話パート、特にユイカの台詞とかは現代人っぽく、かなり口語チックな崩れ方をしているのですが、それでも構成・リズムが練られている感があります。
あとはプロット全体の流れもこれと同等で、展開がすごく速いです。入学初日に魔人を召喚して敵と戦うとか、そんなんで。場面転換やら章立ても含めてリズムを作っている感があるので不快なことはないですが…改めて考えると確かに速い…。

印象深かった箇所を引用。
カイとジャンセン(男子生徒)との会話シーン。

「ルスタイン語ってどんなの?」
「公用語にはない、なんていうかなぁ……幅があって。俺は好き。ミステラだったらこの国だよね」
「うん、ここから二時間……て、空港があるから知ってるよね。通ってきたものね。その、うんとはずれ。電車で二時間だけど、駅まで車で一時間。車がないとどこにもいけないの」
 子供の頃からの閉塞感を思い出して、カイは苦笑する。
「車で一時間なら自転車なら三時間だろ?」
「え」
 思いがけないことを言われて、カイはなんだか身体が温かくなるのを感じる。
 さっきの、恥ずかしさで熱くなるのではない。なんだろう。
 おなかの中に星が落ちたみたいだ。
「……そうか。そうね。いやだ、思いつかなかった。だって私自転車持ってたのよ」
 ジャンセンが笑う。
「じゃ、今度やってみれば」
「そうする!夏期休暇ってあったよね」



なんのことはない自己紹介からの場面ですが、カイの生い立ちやら精神性が色々想像させられる、よく練られた会話です。何気ない会話からふっと驚きにつながる、というのが技っぽい。

ジャンセンとの会話の続き。

 ジャンセンはテーブルクロスを指の腹で少しなぞる。考えながら話しているとわかる仕草だった。
「こんな真っ白なテーブルクロス、学校で見たことねぇよ。駅だって街だって、俺たちのために作ったんだろ? そんならロ機関ってのは本気なんだよ」
「すごい略し方ね」
「普通さ。……カイ。そろそろ食事の時間みたいだぜ」



シリアスな発言の合間に、パッと思いついて口から漏れてしまったような発言が挟まれる。それを受けて場面が転換、次のシーンに移る。理屈と感情がないまぜになりつつ展開するような浮遊感、速度感。けっこうこんなやり取りが多用されます。

魔人ユイカが初めて召喚されるシーン。

「……手を、つなごう。私と。……あなたは、私のものだから! 契約魔人、フジシロユイカ!!」
 光が、自分の身体を通して迸る。
 あつい。
 不快ではない。
 夏に、水浴びをして暖められた石に横になる。瞼を通して感じる、水面のきらめき。
 そんなあつさとまぶしさだ。
 身体のかたちに光が押し出されて、それがそのまま身体になる。
 突然生々しくなったひとの気配に、カイは思わず目を開ける。
 知らない背中。髪の毛。後頭部。服。
 誰。
「誰」
 眼前の少女は、振り向いて不敵に笑う。右手の中指の腹を舐める、桃色の舌。薄い茶色の瞳。頭のかたちに添って切られた、前髪だけが少し長い茶色の髪。睫が光っている。茶色の上着に白いシャツ、臙脂のリボンタイ、極端に短いスカートにハイソックスと革靴。
「あなたの、フジシロユイカよ。カイ・ハイ」
「……誰?」
「喚んだくせに。まぁあたしはわかってるから心配しないでいいよ。あたしの使い方もあたしがおしえてあげられる。ただ、今すぐに理解して欲しいのは、あたしはカイの力だってこと。あたしはあなたのものだってこと。あなたの意志で動くってことよ」
 わからない。何を言っているの。



これも技ですね。主観的な感覚の描写から一転して名詞の羅列に。心地よい夢想的な感触が現実の重みで冷え固まったような。そこからユイカのわけのわからん台詞につないでさらに困惑ですね。


…とまあ、いつまでも引用を続けていきたいのですが、くどくなりそうなのでそろそろやめときます。
疎な文体なんだけど、行間・構成に神経が通っている感じが心地よいです。2巻はこれから読みます。


…ちなみに、魔人ユイカの能力は「振動(バイブ)」だそうで…使うと周りにいる人も気持ちよくなっちゃうんだそうで。
最初カイも相当いやがるんですが、しまいには決め台詞がこんな具合に…

「あなたの振動で、イかせてやって!」



やってくれますなぁ。


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落渕

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