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『アクセル・ワールド』1 母と子の物語

落渕です。

普通に本の感想など。


アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)
(2009/02)
川原 礫

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『アクセル・ワールド』でございます。ちょうどアニメの1話をやった後くらいのタイミングですが、私はまだ観てなかったりします。そして原作1巻の内容をここで書いてしまうとネタバレになりそうなので、間がいいのか悪いのか。
念のため、本編に絡む部分は後に回す方向で。

で、「電撃大賞!ウォー!」「アゲハー!アゲハー!」「アニメ化!」「アゲハー!」と、鳴り物入りというか既に評価が確立されてる感があるのかなぁ、と思いつつ読んだわけですが、普通にすごい、さすがの完成度です。
一巻を入り口にして徐々に、というものでもなく、プロローグ的でありながら、このボリュームのストーリーにしてこれ以上ないくらいの終わり方をしています。

曲者的な文章だとか、容赦ない倫理のドライブ感だとか、突き抜けたギャグとか、ケレン味のある設定だとか、そういうのではなく、構成力の権化とでも言うべきスタイルだと思います。一撃一撃に派手さがないように見えるが、最後には全要素が直列に並ぶように配置されていて、ドカンと読者の頭を貫くような。

ということで中身をみつつ、つづき。

本当にザクッとあらすじを書くとこんな感じです。

・2050年くらいの、脳神経直結コンピュータ「ニューロリンカー」が普及した時代が舞台。
・主人公ハルユキ。デブ。いじめられっ子。ゲーム得意。
・ヒロイン黒雪姫。エリート美人生徒会副会長。
・ハルユキが黒雪姫に見出され、謎のゲーム「ブレイン・バースト」を渡される。
・ハルユキ、黒雪姫の弟子として修行する。
・黒雪姫はブレイン・バーストの世界の古参プレイヤーだったが、訳あって隠遁中。
・そんな黒雪姫を狙う謎の敵が。それをハルユキが突き止めて撃退する。

…以上。

あらすじにすると全然面白くなさそうですが、それはその通り。もったいないので、面白い部分はあらすじから意図的に除外しました。
改めて事実だけを並べて見れば小さな事件という感じで、山も谷もなさそうにすら見えるのですが、これらの事件の上にハルユキと黒雪姫の関係が、繊細かつ、ストレートに織りなされるのが良いのです。


まず語るべきは、ハルユキというキャラクターについてでしょう。
彼はいじめられっ子です。何もできない普通の男子でも、ひねくれていて孤立している男子でもなく、他人からも否定され、自分を自分で否定するようなみじめな男子です。
「普通の読者」からしてみれば、過度に感情移入することが躊躇されるような、そういう危なっかしいキャラです。
善悪以前にただ惨めと言ってもいいかもしれません。

そのハルユキが、黒雪姫に見出されるわけです。黒雪姫によって、ハルユキをいじめていた生徒は物語序盤にして早々に学校退場となります。
後は、ひたすら、ハルユキが黒雪姫とどう相対するか、が話の軸になります。
黒雪姫は、ハルユキの友人となり、彼が活躍できる場としてブレイン・バーストを与えます。

それらを得たハルユキはどうなったか? 惨めなままでした。
開かれた世界に耐えられず、惨めな自分のままでいるために、黒雪姫を傷つけるようなことを言ってしまいます。
そして、このハルユキの言葉と並行して、彼の過去=影である、彼をいじめていた生徒の凶行によって黒雪姫は生死の境をさまよう傷を負ってしまいます。

ここで改めて、ハルユキは惨めでない自分に立ち帰ろうとし、黒雪姫と正しく相対しようとし、彼女の騎士として、謎の敵から彼女を助けようとします。
この戦いにおいて、彼はゲーム内で自分に隠された力を発揮し、唯一無二の存在としての自分を発見することになります。


こうして見れば、最底辺を這いつくばっていたハルユキが、黒雪姫と並び立つ自分を発見するまで、というまさにジュブナイル、王道のストーリー。大事件、大きな変化です。


で、一つ、作中で鍵として出されるのは「親と子」という言葉です。
設定としては、ブレイン・バーストのコピーを渡したのが「親」、受け取ったのが「子」ということになります。ブレイン・バーストは一度しかコピーできない、という熱い設定が、ゲームプレイヤー内に特別な関係をもたらしているわけで…これはこれは…というとことなわけですが。

当然、黒雪姫が「親」、ハルユキが「子」ということになります。
もちろん、プレイヤーとしてのイロハを叩きこむ役回りということで、黒雪姫はまさしくメンターなわけですが。
ここで引っかかるのは、「親」である黒雪姫が一度死ぬ、という展開ですね。

親 - 子 の関係性においては、死 - 継承 - 克服 といった様々な関連概念が呼び起こされてきます。
男子において最も有名なパターンはオイディプスコンプレックス=父殺しということになるでしょう。
ラノベにおいては、少年と父たる外敵との戦い、として具現化されるものだと思われます。

では、ハルユキは父殺しをしたのか?

ハルユキに親はいたか? いません。
作中では、ハルユキは母子家庭の一人息子という設定になっています。母は仕事が忙しく、ハルユキと顔を合わせません。ハルユキに親はいません。

オイディプスコンプレックスにおける「父」は、外部と言っていいと思います。対する内部は「母」あるいは「女」です。得たいもの、欲しいものを持った少年がその権利を獲るために行うのが「父殺し」です。

ハルユキに得たいものはあったでしょうか。欲しいものはあったでしょうか。
ハルユキは消えようとしていた、そう言った方がしっくりと来ます。
あるいは生まれてすらいなかった。
生まれていなかった子が殺そうとする親とは誰か。母ですね。


生まれていなかった「子」であるハルユキが、黒雪姫という「母」に見出され、死の危険を冒して、(再び)生んでもらった。子が母を得る物語、母が子を生む物語、これが今作だと思います。

ハルユキをケガレ、黒雪姫を聖女と言い換えればしっくり来るかもしれません。
ハルユキは人以前のケガレです。黒雪姫は無垢なる聖女です。
聖女はケガレを全肯定し無償の愛を与えますが、聖女はそのままではケガレを救うことができない。ケガレの負った傷をその身に受けて、その痛みを分かち合わなければ、彼の母になることはできない。と。

ハルユキが黒雪姫を拒絶するシーン、ハルユキの傷・痛みの具現化である、いじめっ子生徒の一撃を黒雪姫が受けるシーン、死と再生、病院の産道、母を守る子、と一つ一つのシーンが説得力を持ってつながってくるように感ぜられるわけです。

そして、シルバー・クロウの産声、赤子としてのハルユキ、出産と終えた母と子の再会、と流れて、圧巻のラスト、「黒雪姫の帰還」へと。
壮大なラストにして壮大なオープニングではありませんか。




…と、まぁ、そんなんでラストに至っては「あー、こら大賞だわぁ」という感がありました。

しかし「黒雪姫ー!」「アゲハー!」「黒雪姫ー!」「アゲハー!」な感じで、黒雪姫どっぷりですね。
黒雪姫を母として生まれなおしたハルユキは、黒雪姫と対等な位置に立てたわけですが、母でもあり姉でもあり妻でもある、みたいなポジションになってるわけで。幼馴染が10回20回ラッキースケベをやったところでびくともしない気がします。

いやまぁ、1巻~10巻の表紙が全部黒雪姫の時点でお察しくださいではありますが。
キャラクター戦略的には完全一点突破ってどうなの。


ケガレが聖女の胎を借りて生まれなおす、というのは何かそういうパターンがあるんじゃないかという気がするのですが。一寸法師はどうだろうか…生まれなおしてはいるんですが。あるいは、シャア・アズナブルか。


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落渕

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