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『新幹線と私』 第十話

車両に乗ったばかりのオレを出迎えたのは、ヤツの声だった。

「ひさしぶりですね。まだ諦めていないのですか」

慇懃無礼なその口調は、車掌の制服にまったく似合ってない。
反吐の出る声だ。自分が状況を全て把握していると言わんばかりの、高慢な声。

「それはオレの台詞だよ。この世界を何百回繰り返した? 何億何兆の人間を生み出し、殺した? 本当の世界を守るために、仮初めの世界を何度滅ぼしたんだ?」

そう、この男は神だ。少なくとも、この地球に住んでいる人類にとっては。

「あなたの言うとおり、所詮は仮初めの世界ですよ。この世界の子供達が、砂場で城を作っては壊すのと同じ。覚えておく価値もない」

全く馬鹿らしい会話だ。出来の悪いライトノベルでなければ、狂人の戯言でしかないような台詞。だが、これが真実だ。

「だったら何で候補者を選ぶ? 作り直した世界に、古い世界の人間を一握り連れて行って何になる?」

オレは転生を繰り返し、そのたびに世界の秘密のかけらを集めてきた。こいつの手口はもう全て割れている。『候補者』の制度を除いては。巨大なジグソーパズルが、あと一つで完成するんだ。

だが。ヤツはオレの言葉を聞いて、さもおかしそうに口の端を歪めた。

「そのこと自体には意味はありませんよ。でも、ね。何かそこに秘密があるんじゃないか、と思う人がいるんですよ。今までずっと隠れていたのに、秘密を暴こうとつい表舞台に出てきてしまうお調子者が。そう、ちょうど今のあなたのように」

「なん、だと……」

「さあ、そろそろおとなしくして頂きましょう。私も忙しい身なのですよ。あなたも知っての通り、王女を次の転生の輪に送り出さなくてはならないのですから」

ヤツが台詞を言い切ると同時に、オレの視界が闇に包まれる。今まで何度も、ゴミを捨てるような感覚でこうやって虚無への門を開いてきたんだろう。だが、今度はオレが笑う番だ。

「甘いよ、あんた。今のオレは『候補者』でもある。候補者を傷つけられるのは候補者だけ。あんたが作ったルールだろ?」

そう言ってオレは身を翻した。得意技を封じられたヤツの顔を見れないのは残念だが、今はこの茶番を終わらせるのが先決だ。どんな喜劇も何百回も繰り返されたらたまらない。オレはもう飽きたんだ。

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ラナクター

『新幹線と私』 第九話

「まもなく新大阪、新大阪です。
 お忘れ物、落とし物がございませんよう、
 お手回り品を今一度ご確認ください」

目的地が車内放送で流れ、意識が覚醒する。
自分が眠りこけていたことに気づくには
さらに瞬き数回分の時間を必要とした。

変な夢を見ていた気がする。
何かのおとぎ話のような、神話のような。
はかない恋物語のような、
でも最後にはすべてが闇に溶かされてしまうような、
そんな物語。

自分にそんな乙女のような感性が
幾許かでも残っていたことは不思議だった。
そんな気持ちは、
あの日のあの場所にすべて置いてきたつもりだったけど……。

隣の席は空席だった。
博多から乗って、結局ずっと空席のままだった。

ふと、学生時代の風景が脳裏に浮かんだ。
そのころも私の隣は、やはり空席だった。

新幹線は新大阪駅のホームに滑りこみ、
僅かな揺れと共に停止した。
私は席をもう一度振り返って忘れ物がないことを確認し、
車輌を出る。

入れ替わりに新しい乗客が乗り込んでいく。

この便はこのまま東京に向かう。
私のようにここで降りる客もいれば、
このまま乗り続ける客、
ここから乗ってくる客もいるだろう。

それぞれの人生にそれぞれの旅路。
何かを象徴しているようで、
しかし、
それはそのまま言葉通りの意味でしかないとも思う。

途中で買ったコーヒーの空き缶を捨てようと
コートのポケットをまさぐった。
その時、空き缶以外に手に触れるものがあった。

それは小さな可愛らしいコインケース。
自分のものではないチケットが覗いていた。

無意識に、チケットを手に取る。

右下に小さく、「カズ」と走り書きがしてあった。

「あ、それ、オレのです。すんません」

背後から急に声を掛けられて、
私はびっくりして振り向いた。

声の主は私の挙動を無視してしゃがみ込み、
コインケースを拾い上げる。
そしてそれを私に差し出した。

「こっちはあなたのですよね? どうぞ」
「あ、はぁ……」

まるでそうするのが当然のように
彼からコインケースを受け取り、
同時にチケットを彼に渡す。

「ありがとう。ここまで届けてくれたんですね」
「いや、私は……」
「これがないと、電車に乗れないところでした。
 いや、助かった」

発車を知らせるベルが、ホームに鳴り響く。

「あ、もう行かないと。それじゃオレはこれで」
「ま、待って! そのチケット……」

青年は新幹線のデッキに飛び込むと
こちらを振り返った。

妙に人懐っこい、
見るものを安心させる表情だった。

「ああ。
 もうあなたは大丈夫ですよ。
 ちゃんと役目を果たしたから」

すぐにドアが締まり、
私は彼に問い掛ける機会を永遠に失った。

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秋人

文学フリマおつかれさまでした

落渕です。
1日経ってようやく落ち着いてきましたが…ご来場いただいた皆様、関係者皆々様、おつかれさまでした。

いつも通り反省点の多いイベントにはなりましたが無事終了し、後はただただ、作品を面白いと思っていただけることを祈るばかりです。


また平常運行に戻り、まずは、「新幹線と私」の完結ですね。
これは言っていなかったかもしれませんが、全12話予定ですので、残すところあと4回となっています。
早ければ今週末には更新できるかも?といったところです。

また、作品レビューなどもぼちぼち再開しようと思います。

それでは、今後もご贔屓に。

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落渕

第十二回文学フリマ のお知らせ

おはようございます。落渕です。

秋人さんからも告知ありましたが、第十二回文学フリマ参加します。
この辺に載ってます。H-04 でございます。

文学フリマ - 第十二回サークル一覧(F-J)

大展示ホールの、入り口から4列目ですね。

実は、サークル名が S.L.S. から変更になってから初のイベント参加だったんですね。というか今年もう半分過ぎつつことに驚愕というか…。

今回、新作が2点出展になります。


○ 『密室探偵演技』 by 秋人

はい、第一章公開中です。
第12回文学フリマ 出展作品「密室探偵演技」

…しょっぱなから何やら大変なことになっていますが、続きは本編見てのお楽しみということで。
探偵さん、名前が「紅宮エリカ」となってますが、これ実は昨年出展した『探偵なんてもういらない』の登場人物だったりします。いわゆるスピンオフって奴ですね。
前作を目にしていただけた方は、2割増くらいで楽しんでいただけるはず。
ご期待ください。


○ 『パフェから始まる恋』 by ラナクター

こちらは新規タイトル。ラナクターさんの渾身の一作です。
百合かファンタジーかで言うと圧倒的に前者なわけです…サークル紹介的に。

表題どおり、ワンシーン勝負の短編ですが、そこにギュッと氏のこだわりが詰まっています。「あぁ、そこは譲れないんだ…」みたいな描写が至るところに散りばめられている…こだわりすぎていてどこにこだわっているのか分からないくらいの…。
変に強調してもアレですが…サッと読んで爽やかな余韻が残るようなお話ですので、是非お手に取ってご覧ください。


と、いうわけで、文フリ、今回もよろしくお願いします。


※ファンタジー…についてはお察しください。

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落渕

第12回文学フリマ 出展作品「密室探偵演技」

ご無沙汰してます。秋人です。

リレー小説がまだ途中ですが、ここしばらく、
6/12(日)にある文学フリマに出展する作品をシコシコ
書いていたのでした。

何とか目処が付いたので、こちらで冒頭部分を先行公開します。

もし文フリに行くつもりの方で、興味を持たれた方は
S.L.S.改めクーロンパンダのブースに足をお運びくださいませ。
価格はたぶん300円前後になると思います。



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わたしは、もう一度それを見上げた。

薄いベニヤ板一枚でできた、粗末なドア。
ご丁寧に取っ手までついているが、
今の私にはまるきり無用の長物だ。

見つめているとイラついてきて、
今すぐ戸板を叩き破りたい衝動に駆られる。

でもここはガマン。

そんなことをしたって何にもならない。そもそも今のわたしには
【この扉を開錠することも、ましてや破壊することもできない】
のだ。

……なにしろこれは「鉄製の扉」なのだし。


上げかけた拳を引っ込め、代わりに舌打ちを一つすると、
わたしは舞台……もとい、部屋の中央に戻る。

まずは現状把握だ。
今一度、自分の置かれた状況を確認しなくては。
すべてはそこから。すべての思索の出発点。


わたしがいるのは、小学校のプールの女子更衣室。
背後の壁には鍵がかからないタイプのドア付きロッカーが
五十個ほど並んでいる。

窓はなく、出入り口が三つ。

一つはさっきわたしが八つ当たりしようとした
【外の廊下につながる扉】

そのちょうど反対側、奥の突き当たりにあるのが
【プールにつながる扉】

そしてその左手九〇度の位置にあるのが
【隣接するシャワールームへの入り口】だ。

プールにつながる扉は施錠されていないが、
この学校のプールは【地下にあり、この更衣室を通らず
外に出る方法はない】
ので今は無視する。

問題は、シャワールームだ。


シャワールームの光景を脳裏に描く。

こちらも窓はなく、出入り口も【更衣室とつながる一つしかない】

肩の高さの衝立によって仕切られた簡易な個室に分けられているが、
現状でなによりも特筆すべきことは――
【シャワールーム中央に、男性がうつ伏せに横たわっている】
ことだ。

つまりこいつが事の発端。
だがもちろん彼は(おそらく)被害者であって、
真に責めを負うべき人物は他にいるはずだ。

それから、いちおう【彼の生死は不明】というのを付け加えとこう。

女子更衣室のシャワールームで倒れている男なんて気持ち悪くて、
わたしには検死紛いのことをする気にはとてもなれなかった
(ことになっている)。


でも、わたしを混乱させているのは、
シャワールームに男が寝転がっていることでも、
廊下側の扉に鍵がかかっていたことでもない。

……うつ伏せなのだ、この男は。

それが今このシーンにおける最大の問題点。
こいつが仰向けであれば、何の問題もなかったのにっ……!


つまりこれは、罠だ。

自ら表舞台に立とうとせず、舞台裏からこのわたしを、
紅宮エリカをコケにしようとしている卑劣な何者かが仕組んだ
罠なのだ!

このまま考えなしに進めば、わたしは事件を解決できない探偵として
人々の嘲笑の的になるだろう。


いいさ。

そっちがその気なら、こっちはその挑戦を受けるまで。

宣戦布告と行こうじゃないか。
待ってろ、今に吠え面かかせてやる。


小さく息を吸って、止める。そしてわたしは力いっぱい叫んだ。

「どうしよう! 事件の現場に、閉じこめられた!!」

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  密室探偵演技 第一章「囚われの探偵」
  ※Web掲載に合わせて、改行等を調整しています。

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